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イラストレーター、DJ ヨシダキョウベイ[Kyobei]/大阪芸術大学美術学科中退/伊勢志摩マニア お仕事のご依頼は kyobeya@gmail.com まで。

2011年1月19日水曜日

VESPAでお蔭参り その1

2011年も明けて寒い日々が続いております。家から一歩も出たくないこんな日こそ、いずれ来る暖かい日に向けて旅の計画を立てておくのはいかがでしょうか。今回はその一助にでもなればと思い、昨年の伊勢志摩旅行記をアップする事に致しました。題して“VESPAでお蔭参り” 三部に分けてお送りしますのでよろしくどうぞ。

ゴールデンウィーク初日。5月1日の朝7時40分頃、愛車のべスパP200Eに跨り大阪を出発。これから二泊三日の間、二見は大江寺ユースホステルを拠点に伊勢志摩を巡るのだ。大和川を越え堺に入り、2号線から309号線へ折れて富田林へと南進。ひた走る事一時間もすれば水越トンネルに着きます。この水越峠に掘られた全長二キロ程のトンネルを抜けると奈良県に入ります。天気は快晴でしたがやはり朝の放射冷却と風圧により体は冷えてしまいました。どうにかしないとこのまま伊勢まで走るのはつらいと思い、吉野は大淀町のホームセンター・ダイリキに立ち寄り紳士用パッチを買いトイレで履きます。念には念を入れ防寒用にレインコートを被り再出発です。途中、吉野のコンビニで朝ご飯を買い、吉野川河川敷にて朝食です。

 吉野から東吉野村へと入り、川沿いの山道をひた走ります。この辺りは吉野杉の産地という事もあり林業が主幹産業なのか製材所や加工所が目立ちます。空気に木の香りがふんだんに含まれており走っているととても清々しい気持ちになります。窪垣内と書いて〈くぼがいと〉と読む交差点や小栗子と書いて〈おぐるす〉と呼ぶ町を越え、ニホンオオカミの像や、天誅義士の墓(終焉の地と書かれていました)を横目に山間の道をずんずん突き進みます。しかし、どんな田舎であれ酒屋はあり、そしてもれなく地酒の看板を掲げています。それらを目にするにつけ停車して寄り道したくなりますが、それはまた別の機会にという事で旅を急ぎます。前方に“樹氷”で有名な高見山が見えてくるといよいよ奈良と三重の県境です。この山に掘られた高見トンネルを通過するともう三重県です。
三重県に入りました!
 さて三重県内に入って次に目指すのが休憩ポイントである道の駅〈飯高駅〉です。ここは地域最大の商業施設で、地元で採れた農作物や狩猟物畜産物を売るマーケットだけでなく、レストランや温泉施設も充実しており、観光客やドライバーやライダーのパーキングエリア以外に地元の方の買い物場所でもあるのです。私がここへ来た際必ず買うのが草餅です。この草餅が今まで食べた草餅の中でも群を抜いて美味しいのです。餅は歯ごたえを感じさせる程に米が凝縮されていて中の粒餡も甘さが程良く控えめ。奈良や大阪でも草餅を食べることはありますがどれもぐにゃりと頼りない食感にやたら甘いだけの餡ばかりでこの飯高の草餅とは比べ物になりません。ここ道の駅〈飯高〉に来る機会があればぜひ食べていただきたい一品です。


いざ行かん伊勢路
 休憩も束の間、飯高駅を後にひたすら伊勢を目指します。…ですが、ここからはもう一時間程で着きますので、景色を眺めながら道草を食うくらいの余裕で行きます。飯高から大紀町、大台町、度会町辺りにかけては伊勢茶の栽培が盛んで至るところに茶畑があり、それら茶葉に新鮮な空気を送る為の風車が沢山設置されています。晴れた五月の空の下でゆっくりとプロペラを回している風景が長閑であります。水もきれいで周辺を流れる櫛田川のせせらぎは陽に照らされ澄んだエメラルドグリーンの輝きを乱反射させています。べスパを停め、橋から川面を覗くと流れにたゆたう魚影を沢山楽しめました。


 路をずんずん突き進み、伊勢に近づきます。宮川沿いの道路をひた走り、度会橋で国道へまがるともう伊勢市内です。
 ・・・と、ここで腹の虫が鳴ります。伊勢神宮外宮に着いたものの、今回は手水場で手を清め第一の鳥居前で拝むだけにしておきます。何度も訪れているので今回は参宮を端折りました。神様すいません。とてもお腹が減っていましたもので…。とにかく昼食をとろうと河崎町にある伊勢うどんの名店〈つた屋〉さんへ向かいます。地元の方に尋ねながらなんとか辿りつくも、店は大繁盛しており、しばし並ぶ事に。ようやく席が空きましたが見ず知らずの女性と相席です。面映ゆいとはいえ何も喋らないのもかえって気まずいので註文したチャーシューのせ伊勢うどんが来るまでの間、世間話をしました。そしてうどんが来るやいそいそとたいらげ、勘定を済ませ店を後にします。ところが何か附に落ちません。思ったより高額だった気がするのです。今まで食べた伊勢うどんの中では断トツで高い。やはりチャーシューが載ると高くなるのか…と思いましたが、ここではたと気付きます。なんと相席の女性の分まで代金を支払っていたのです。どうりで勘定場のおばあちゃんに「ご一緒で?」と尋ねられたのか合点が行きました。カップルと勘違いされていたのです。何をご一緒なのか分からなかったのでとりあえず「はい」と答えていた私もおかしいのだが…。我ながら本当に阿保である。

猿田彦神社
 何はともあれ腹拵えを済ませたのでいざ、伊勢神宮内宮を目指します。ですが、まずは神宮手前にあります猿田彦神社から先に訪ねます。猿田彦様は“みちひらき”の神ともいわれており、母が喫茶店開業の際、こちらで奉納祈願をしましたので私も神宮参拝の際は折を見て立ち寄るようにしております。参拝後は同社内に祀られているさるめ神社も参拝します。こちらは”さるめ様”こと天鈿女命アメノウズメノミコト)様をお祀りしている神社です。古事記によると天の岩戸に籠った天照大神を引っ張り出す為、文字通り、ひと肌脱いで踊りまくったという女神様で、芸人や俳優といった、芸能の神とされています。猿田彦様とは夫婦の間柄ともいわれております。

 さていよいよ伊勢神宮・内宮です。日本人の総氏神である天照大神様を祀るだけあり、参拝者が続々と詰めかけて来ていましたがゴールデン・ウィーク初日ということでまだ混雑を極めるという程ではありませんでした。新しく架け替えられた宇治橋を渡り、神域である宮内に足を踏み入れます。一歩、一歩、玉砂利を踏みしめ歩き、五十鈴川御手洗場のせせらぎにて手を濯ぎ清め、息を吸い、吐き、見て、祈る…。それだけで日常生活で心身に纏わりついた夾雑物が抜け落ちていくような気がします。樹々の隙間から漏れる日差しはやさしく降りそそぎ、往古から変わらぬ杜の佇まいがやさしく迎え入れてくれます。そして歩くうち何か大きなものに抱かれているような不思議な感覚に捉われるのです。二千年という時の間、我々の先祖が祈りを込めて巡拝した地にいる、こう思うだけで自然とこの地に対する恭敬の念が沸き起こるのです。

 ご正殿に拝礼を済まし、宮内をそぞろ歩いた後、神宮を後に。おはらい町にて地酒とそれにあう酒器を捜してうろうろします。何軒かの酒屋を見て回り、神宮奉納御料酒である〈白鷹〉と伊勢界隈でシェアNo1という〈鉾杉〉が気になりましたが荷物になるのですぐには買わず、一旦おはらい町中程にあるおかげ横丁へと向かいます。伊勢に来て食べ歩きをしないわけには行きません。まずは〈豚捨〉にて名物のコロッケとミンチカツを食します。あつあつでほんのり甘いコロッケとジューシーで肉汁溢れるミンチカツ。どこか懐かしい味わいに舌鼓を打った後、露店にて牡蠣のコロッケボールなるものも試し〈モクモク・ファーム〉のマスタード・フランクをも食してみます。昼食後というだけあってもう満腹です。人でごった返すおかげ横丁を脱出し、赤福本店も(何度も来ているので今回は)スルーし、酒屋巡りを再開。伊勢を代表する地酒〈おかげさま〉の蔵元直営酒屋へと足を運びます。ここはお酒だけでなく陶芸家や硝子作家の制作した徳利や御猪口やグラスなどを商うギャラリーを併設しています。そこで様々な御猪口を見ましたが、イメージするデザインの物はありませんでした。店内にて立飲みも出来、一合呑みたくなりますがバイクで来ている為泣く泣く店を出ます。その後も何軒か回った上で、地酒〈鉾杉〉と〈三重桜〉のワンカップを試しに買うことにしました。
一生に一度はお伊勢参りって言いますわな
 
 時間も頃合いもよくなって来たので宿であるユースホステル大江寺へと向かいます。大江寺は二見浦近く〈江〉という町の小高い山の中にあります。予約を入れた時はすでに満杯と聞いていたのに蓋を開けてみたら大部屋に私を入れて三人だけ。奈良市からバイクで来た男の子と神奈川県厚木市から自転車で来た男の子と私のみ。他の部屋には千葉の市川から来たという女の子が一人いるくらいで計4人のみの宿泊でした。なんとも肩すかしであります。ともあれ夜は食堂にて相部屋三人衆と女の子を加えて会話を楽しみます。この宿の最大の魅力は見知らぬ者どうしの情報交換にあります。この日はたまたま日本人のみの宿泊でしたが、世界中から観光客が泊まりに来るので出会いもあれば面白い話やカルチャーショックも楽しめたりするのです。奈良の男の子がハイボール缶をやり始めたので私も、試し買いした〈三重桜〉のワンカップを開けつき合いました。なかなかしっかりとした旨口に旅の疲れが睡魔と共に襲って来ました。結局その日は夜更かしすることもなく消灯とともにおひらきとなりました。


その2へつづく…

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